導入企業インタビュー

グローバル人財育成への挑戦

― 変革を生む施策と大成建設の想い ー

大成建設では、急速に変化する外部環境に対応しながら会社と社員の持続的な成長を実現すべく、中長期的なビジョン「TAISEI VISION 2030」を策定しています。その中で掲げる「人的資本の充実」の達成へ向けて、同社の人事部 人財研修センターは、驚異的なスピードと革新的な施策で人財育成を加速させています。
今回のインタビューでは、「グローバル人財育成」に焦点を当てた内容で、その取り組みや込められた想いについてお話を伺いました。

大成建設株式会社 ・管理本部 人事部 人財研修センター長 田中康夫様(以下:田中様)

大成建設が目指す人財像 -「人間力」

本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、御社が中長期的ビジョン「TAISEI VISION 2030」の中で掲げられている「人的資本の充実」について、めざす人財像がありましたらお伺いできますか?

田中様 我々が目指す人財像を端的に表すと「人間力」と「専門性」を兼ね備えた人です。特に主体性、チャレンジ精神、諦めない心、マネジメント力といった要素は人間力が土台にあってこそ育まれるものだと考えています。専門的な知識だけではなく、豊かな感性と幅広い知識を持つ人財を育成する為に「リベラルアーツ」も重要な要素として位置付けています。
グローバル人財にフォーカスをすると、「語学」の分野も重要ですね。コミュニケーションには「バーバル(言語を使ったもの)」と「ノンバーバル(表情、声のトーン、身振り手振りを使ったもの)」があって、ノンバーバルが8-9割を占めると言われています。しかし、ビジネスの場、特に交渉の場では、やっぱりバーバルで論理的に話さないと相手と対等な立場で議論できませんし、成果を出すに至る交渉ができないというところはあると思っています。

ありがとうございます。もう一つ、前提としてお伺いしたいのですが、海外事業を多数展開されている御社において、現在、グローバル人財に関して田中さんのところに降りてきている課題はどんなものがありますか?

田中様 今は人材不足が一番の課題ですね。2000年一桁台の頃は多くの社員を海外に派遣していましたが、ここ最近は若手の継続的な派遣を行ってこなかった為、海外事業に携わる人が固定化されてしまっています。そんな状況の中で、今回、海外事業を拡大していこうといった時に、新たに担い手になる人財が育っておらず、不足しているのが現状です。そのため、人財育成が急務の課題となっています。
また、今の戦略実現にどのようなレベルの人財がいつまでに何人必要かを作成し、足りない人員の数値目標を設定し、戦略的に育成を進めていくことも必要と考えています。

事業戦略に合わせて必要人員を「見える化」するというのは非常に難しいところですよね。

田中様 そうですね。ただ、その計画を立てるのを待っていては、時間がかかってしまいますので、「今できることから着手しよう」と決めました。現在は、研修の一環として社員を海外現地に派遣する取り組みを始めています。現地での経験・1次情報に触れることは、非常に大きな意味を持ちます。将来、自身のキャリアを考える上でも重要な選択肢の一つとなります。そうやって「グローバルで活躍したい」と思う人を増やし、広げていくということが、まずは今取り組んでいることです。

グローバル人財育成への新たな挑戦

今お話しいただいたような課題やめざす人財像を踏まえて、人財研修センターでは、実際にどのような施策を進めているのでしょうか?

田中様 まず、ゴールはTAISEI VISION 2030の実現です。その実現の為に活躍する人財を育成することが私たち人財育成部門としての使命だと考えています。そのために現在主に3つの施策を進めています。

1. 方針策定
2. キャリア形成
3. 研修の高度化

それぞれについて詳しく教えていただけますか?

田中様 はい、まず「方針策定」では、当社全体の育成プランである「マスタープラン」を策定しました。その中の個別戦略としてグローバル人財育成プランを作りました。そして、社内だけでなく社外にもその情報がきちんと届くよう、情報発信に力を入れています。具体的には、

・ 社内は、全社員向けの一斉メール
・ 動画のPRサイト運営
・ SNSでの発信
・ 人事ホームページの刷新

などがあります。
届けたいターゲットを分析し、対象にあわせた良質なコンテンツを、適切なツールを使って届ける。口コミが生まれるような仕掛けをするなど、社内外問わず、情報発信はマーケティングが大切だと考えています。

ありとあらゆるコンテンツやツールで発信をされているのですね。では「キャリア形成についてはいかがですか?」

田中様 「キャリア形成」については、社員が主体的にキャリアを描けるように支援することを目的として、活躍する社員を紹介するキャリアシートの作成・公開やそれに類する情報発信の為のコンテンツ作り、それから海外社員との交流機会を作るというようなことを二本柱でやっています。強制されても人は動かないので、グローバル人財に関していうと、自ら「グローバルで活躍したいな」と思ってもらえるような施策ですね。つい先日も若手社員が先輩社員と直接交流できるキャリアイベントを開催しました。そこには海外事業の社員も参加し、「海外事業ってどういうことをしているんですか?」とか、「どうやったら自分も海外で働けますか?」「どんなスキルや知識を身に付けたらいいですか?」というような質問が飛び交っていましたよ。

その交流会、素晴らしいですね!どのぐらいの年次の方が参加されたんですか?人数はどのくらいですか?

田中様 ウェブ開催のものは年次や職種を問わず、誰でも自由に参加できる形式でやりました。登壇者が42名、延べ参加者が530名でした。

500人以上ですか!社内イベントでこれだけ人数が集まるのはすごいですね!

田中様 イベントを通じて感じたのが、やっぱり同じ会社でも実は他の人の仕事を知らない、でも興味を持っている人は多いということですね。今回お話している人的資本とはまた別で両輪で進めている風土改革があるんですが、そこにも繋がるなと思っています。お互いの仕事を知って、尊重しあうということは大切です。建設業は在庫を持たないので、会社の価値は「人」にあるんですよね。個々の人が持つ技術力や専門性、あとは社員同士のつながりなど、そういう「人を育てる」ことが当社の強みだと思います。「人と人」という施策ではOJT制度もありますが、各人の業務多忙な中でのOJT教育にはより生産性をあげていきたいという課題感を感じています。どの企業でも結構あることだと思うのですが、自身の業務が多忙の為パソコンに向き合うばかりで、人に向き合えない、チームメンバーとなかなか会話ができない状況があります。それを解決するためにも業務部分は生成AIにまかせて、その分でできた時間でもっと人と向き合って、メンバーの悩み相談や将来を語るなど、そういう時間に使えるといいなと思っています。

「人」を大切にする大成建設らしい考え方ですね。それでは、3つ目の「研修の高度化」について教えていただけますか?

田中様 はい、「研修の高度化」では、研修内容のレベルアップを図る施策、例えばグローバル人財育成研修の中で異文化対応の研修をするなど、海外事業部の人との面談の機会を設けて具体的な業務を知ることができるような施策を進めています。そしてその実施内容について情報発信することにも力を入れています。

様々なアプローチで社員の方々の意欲を引き出すコンテンツを作られていますね。少し拝見しただけでもみなさんが楽しく見ていらっしゃるんだろうなというのが伝わります。

田中様 そうですね、情報発信の量はかなり多いですよ。(笑)

語学研修の再構築/経験が紡ぐ未来

約一年前にお会いした際に、ちょうど「グローバル人財育成が課題としてあがっている」とおっしゃっていましたが、当時の状況を改めて教えていただけますか?

田中様 当時、TAISEI VISION 2030や中長期計画において海外事業展開の方針が示され、グローバル人財育成が喫緊の課題となる中、「うちの語学教育はどうなっているのか?」という議論がありました。その流れの中で調査を進めるうちに、グローバルで活躍するために必要なのは語学力だけではないと実感しつつも、語学が依然として重要な要素であることを改めて認識し、現在の施策へとつながっていったという経緯があります。

グローバル人財に求める語学力の水準については、常に議論になるポイントですよね。

田中様 はい、その通りです。社内では「英語ができるかどうかよりも、国内外で確実に仕事を遂行できる人財こそが本質だ」という意見もあり、これは今でも共通の認識となっています。大成建設のアイデンティティを理解し、我々がなぜ海外で事業を展開するのかというビジョンを持って赴任することが大前提です。しかし、そのビジョンに偏りすぎる面もあったと感じています。つまり、英語力が不足している状態で交渉の場に立った時、たとえ自社のアイデンティティを持っていたとしても、相手に的確に伝えることができなければ成果にはつながりません。ロジカルに説明し、説得する際にはやはり高度な語学力が求められるため、語学力は重要な要素の一つであると考えています。

まさにその通りですね。我々も同じ想いでこの研修を提供しているので非常に共感しています。今回、「オフィス留学」に興味を持っていただいたポイントはどんなところでしょうか?

田中様 やはり建設業に特化したプログラムであるという点が大きな魅力です。一般的な英語研修は他にもありますが、建設業に特化した内容は他にないため、現地で活躍でき、即戦力となる実践的な研修であるという印象を受けました。

ありがとうございます。

田中様 さらに、受講生のモチベーション向上を図るために、受講生側の受講費用の負担まで考慮されていた点にも大変驚きました。当社にとってもこのような制度の導入は初めての試みであり、公募で全く応募がなかったらどうしようかとさえ心配していました。(笑)

結果的には約80名の応募がありましたね。(笑)

田中様 あの応募状況を見て御社とやってよかったなと思いました。私が考える自己啓発の形と、御社の提案が見事にマッチしていたと実感しています。意欲のある人財に対して、会社がしっかり支援するというのが、現在の我々の自己啓発の基本方針です。その基盤を築けたことに大変感謝しています。

大変うれしいお言葉、ありがとうございます!
最後に、グローバル人財育成について、今後の展望をお聞かせいただけますか?

田中様 今後は海外派遣をさらに推進していく方針です。そのため、来期はOJT改革や自己啓発の強化、生成AIの活用を通じて国内の生産性向上を実現する計画です。国内の生産性が向上すれば、海外を含むさまざまな部署での経験が可能になり、キャリア形成がより促進される環境が整うと考えています。
また、海外現地でのトレーニングをより充実させるため、現地プログラムの拡充や語学力向上も不可欠です。そして海外で学んだ人財が国内に戻り後進を支援することで、グローバル人財の母数を増やし、持続可能な好循環を実現することを目指しています。